星野宅2日目_1

「それじゃ母さん、ちょっと買い物行ってくるから。」
ハルコはハチに言った。
「ああ。えーと、なるべく早く帰って来てくれよ。」
ハチの言葉にきょとんとするハルコ。
「なに言ってんのよあんたは。せっかく二人きりなんだから、
男なら根性みせなさいよ。」
「なっ!…タナベはそんなんじゃねぇよっ。」
あっはっはと笑いながらハチの肩をばんばん叩く。
「まぁったく何言ってんだかこの子は。」
「そりゃこっちのセリフだっ!!」
ハチの言葉も聞かず、そのまま笑いながらハルコは玄関を出る。
「くそ…二人きりじゃ気まずいんだよっ…。」
昨日の海岸でのアレを思い出す。
ハチはそのまま2階へあがってしまおうか迷ったが、
タナベを居間で一人にするのも悪いと思いしかたなくタナベの所へ行く。
「お母さん、出掛けたんですか?」
こたつからタナベがハチに言う。
「んー…ああ。」
そっけない返事をしながらハチがこたつに入る。
「そう…ですか。」
居間にバラエティー番組の音声だけが流れ続ける。

やっぱ気まずい…ハチは思った。
目線はテレビを向いていても内容はまったく耳に入ってこない。
玄関でハルコに言われた事を思い出す。
そわそわとだんだん落ち着かなくなってくるハチ。
思い切ってタナベの方へ振り返る。
「なぁタナベ、昨日の…」
タナベはこっくりこっくり頭を揺らしている。
拍子抜けするハチ。
「なんだよ……。タナベ!おい、眠いのか?」
「…はい…こたつ、暖かくて気持ちいいですねぇ…」
のんきなタナベの言葉に、はぁーっとため息をつくハチ。
「もういい、寝てろ。」
「はい…寝ま…す…」
タナベはそのまま頭をこたつに乗せてすやすやと眠ってしまった。
「ちっ…なんだよくそっ。」
誰に言うわけでもなく吐き捨てるように言った。




星野宅2日目_2

うつぶせになって雑誌を読みはじめるハチ。
すやすやとタナベの寝息が聞こえる。
やがて読み終わって雑誌を投げ出し、起き上がってみかんに手をのばす。
幸せそうな顔して眠るタナベに目がいく。
「…無防備な顔しやがって。まゆ毛上がってるぞ。」
みかんをむきながら言った。

「……」

ハチがタナベの顔にそっと手を伸ばす。
タナベの顔にかかった髪を指先でよけ、頬に手が触れようとする瞬間
テレビからどっと笑い声が上がる。
その音にタナベの体がびくっとした。
バッと手を引っ込めるハチ。心臓がバクバクする。
「んー…」
一瞬タナベが恨めしそうにテレビを見て自分の体を両手でさする。
「寒いのか?」
タナベはなにも答えず眉をひそめ、
反対側に向きを変えて また眠ってしまった。
「無視すんなよ。ったく…」
周りを見渡して上にかけられそうな物を探す。
「ああもう、しょうがねえな!」
自分に言い聞かせるように言ってチャンチャンコを脱ぎ、
立ち上がってタナベの肩にそーっとかける。
こ…こんな感じで…いいんかな…。タナベの背後から確認する。
タナベのしかめていた眉がゆっくりもどる。

「………」

もう一度タナベに触れようと手伸ばすが、
ぐっと手を握りしめて引っ込める。
「はぁっ。 ……っつーか俺が寒いじゃねぇか!」
ガリガリと頭をかいてハチは2階へとあがって行った。




星野宅2日目_3

「チックショウ、また海に落ちたよ…
母ちゃん!タオルねぇ!?母ちゃん!!」
縁側からズボンの裾をびしゃびしゃに濡らした九太郎が言った。
「いねぇのかよ。メシの買出しか? …ま、いいや。面倒くせぇ。」
スニーカーを脱ぎ捨てて縁側にあがる。
ふと、こたつで誰かが寝ている事に気付く。
「何だいるんじゃねぇかよ。兄ちゃんいるなら返事ぐれぇ…ん?」
タナベがすやすやと気持ちよさそうに寝ている。
「なんだ。タナベサンか。 ……しかしふつう人ん家のこたつで寝るか?」
ハチのチャンチャンコが肩にかけられている。

「……」

やっぱそういう仲なのか?九太郎は思った。
腕を組んでじーっとタナベを見る九太郎。やがて人の気配にタナベが目をさます。
「ん…あれ?九太郎くん、ユーリさんと海岸じゃ…」
タナベが目をこすりながら言う。
すると九太郎がチャンチャンコをタナベから引っぺがす。
「えっ?何?ひっ…や、やっ…!やははははははは!!」
素早く背後にまわった九太郎が
タナベのわき腹を両手でくすぐる。
「九太郎く…!やっ!もぅっ!やめっ…!やめあはははははは!!」
九太郎の手を振り払おうとするも、手に力が入らない。
無表情でひたすらくすぐり続ける九太郎。
タナベの叫び声にだだだだだと、ハチが2階から駆け下りてくる。
「九太郎!てめぇタナベに何してやがる!!」
ハチがガクランの襟をつかもうするが、
九太郎はサッとかわし縁側の外に逃げる。
「そう簡単にオレが捕まるかよバカアニキっ!!」
大声で叫ぶと、そのまま海岸の方へ走っていった。
「あんのガキっ…! おいタナベ、大丈夫かよ。」
ぜえぜえと荒い呼吸をしているタナベ。
「わりぃ、ちょっと上着探してたもんだから…」
タナベが目に涙をためて紅潮した顔でハチを見る。
その表情にぎくっとするハチ。
「先輩っ、あたし…」
両手でハチのセーターをぐっとつかむ。
「すっごい、汗かきました…っ」
タナベの肩からどっと力が抜ける。
「は…ははは…」
ハチの肩からもどっと力が抜けた。


そのころ、海岸で九太郎を待つユーリ。
「遅いなぁ、キュータロー君…
早く拭かないと本当にサビてしまうよ…。」




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