星野宅2日目_2_case2
うつぶせになって雑誌を読みはじめるハチ。
すやすやとタナベの寝息が聞こえる。
やがて読み終わって雑誌を投げ出し、起き上がってみかんに手をのばす。
幸せそうな顔して眠るタナベに目がいく。
「…無防備な顔しやがって。まゆ毛上がってるぞ。」
みかんをむきながら言った。
「……」
ハチがタナベの顔にそっと手を伸ばす。
タナベの顔にかかった髪を指先でよけ、頬に手が触れようとする瞬間
テレビからどっと笑い声が上がる。
その音にタナベの体がびくっとした。
バッと手を引っ込めるハチ。心臓がバクバクする。
「んー…」
一瞬タナベが恨めしそうにテレビを見て自分の体を両手でさする。
「寒いのか?」
タナベはなにも答えず、反対側に向きを変えてまた眠ってしまった。
「無視すんなよ。ったく…」
周りを見渡して上にかけられそうな物を探す。
「ああもう、しょうがねえな!」
自分に言い聞かせるように言ってチャンチャンコを脱ぎ、タナベの後ろ側へまわる。
「ちいせぇ、背中だな…」
そう言うとタナベを後ろから、ただなんとなく、抱きしめる。
タナベから心地よい温度が伝わってくる。
「なんだ…あったけぇじゃんか…」
そう言うと、さらに強く抱きしめた。
「ん…う…?」
タナベが目を覚ます。
しばらく自分の状況が理解できない。
「えっ?あっ、あ…」
「じっとしてろ。」
手足をばたつかせるタナベに抑揚のない口調で諌める。
タナベはピタっと空をかく手を止め、ゆっくりとおろす。
おそらく数秒ほどである沈黙が、タナベにはとてつもなく長く感じた。
星野宅2日目_3_case2
自分の体温と、心臓の鼓動がどんどん上がっていくながわかる。
ハチは、タナベの首筋から伝わる熱で自分の体も熱くなっていくのを感じた。
あまりに熱いので、思わずタナベの首筋に唇を寄せる。
「ひあッ!!」
その感触に思わず声を上げるタナベ。
あわてて両手で自分の口をバッとふさぐ。
涙ぐんだ目をぎゅっと閉じてまっ赤になるタナベを見て
ハチの中の抑制がはずれる。
「…わりぃタナベ、止まんねぇ…」
そう言うと少し荒れた唇を首筋から襟の中へと伝わせた。
タナベの心臓がドクンと大きく脈打つ。
指先と目の下がチリチリと焼けるように熱くなる。
「…っ!っ!」
鼓動が激しすぎて声が出ない。
ハチの右手がタナベのセーターの裾から入り込む。
「っ…!や…!」
タナベが頭をぶんぶんと左右に振り、ハチの手を止めようとする。
ハチが首筋を強く吸った。
チクッと刺されたかのような痛みが走る。
「ッ!!っふ…うぇ…」
あまりにも色んな感覚と熱が押し寄せるので、涙があふれ出そうになる。
ハチは右手でシャツの胸元のボタンをはずす。
ひやりとしたハチの手がタナベの胸元に触れる。
タナベの膝がびくん、と反応する。
「せ、せん…!手っ、冷た…!」
本当は冷たいかどうかなんて判らなかった。
ハチの手はひどく熱くも感じた。
そのまま下着の中へ手を滑り込ませようとするハチ。
タナベはあわててセーターの上からハチの手をぎゅうっと両手で押さえつける。
ぐっとタナベは唇をかみ締る。
「せんぱ…も…、だめ…!」
タナベの声と急にこわばる体に、ハチの手が止まる。
「やめて…下さ…」
カタカタと握る手を震わせながら言った。
ぐすん、とタナベが鼻をすする。
「……わるかった。」
そう言うとハチはゆっくりとタナベから離れる。
タナベの背中に冷やりとした空気が戻る。
ハチは言葉をかけようとタナベに手をさしのべたが、
震えている背中を見て、その手を戻した。
居た堪れない気持ちのまま、ハチはゆっくり立ち上がって居間をでていく。
その瞬間堰を切ったようにタナベの目から大粒の涙があふれる。
「う、うぐっ…」
ハチに聞こえないように声を殺しながら泣く。
ぼろぼろと顔につたう涙を両手のひらで拭う。
「なんで…謝るんですか…」
そう言うと、タナベは声をあげて泣いた。
星野宅2日目_4_case2
居間を出たところでハチは俯きながらタナベの泣き声を聞いていた。
悲痛な泣き声にハチはこぶしを握り締めて家を飛び出す。
「バカか俺は!」
重力に足をとられてうまく走れない。
「自分の!都合で!タナベにっ・・・!」
冷えた空気と体の重みで息が切れる。
ぜぇぜぇ言いながら海岸へたどり着いた時にはもう歩くだけで精一杯だった。
「あれ?ホシノさんどうしたんですか。上着も着ないで。」
ユーリがふらふらと近づいてくるハチに言った。
かいた汗で急に体が冷える。
「ユーリ…頼む、…なにも聞かずに俺を殴ってくれ。」
「は??」
突然の言葉にユーリが目を丸くする。
「いや…でも…」
「頼む!!」
いつもと違うハチの切羽詰った表情にユーリも黙ってしまう。
「…えーと、それじゃあ、どこを殴れば…。」
「どこでもいい。」
「……」
ためらいながらもユーリが身構える。
「それじゃ、いきます。」
ハチがぎゅっと目をつぶり歯を食いしばる。
ドカッという音が響く。
小屋の中でエンジンをいじっていた九太郎がゴーグルをあげて顔を出す。
「ぐ…がっ、ごほっ。」
顔面に食らうと思っていたものがみぞおちにきまって
砂浜に膝をつきそうになる。
「…つぅ〜〜〜…」
「だ…大丈夫ですか?ホシノさん。」
「きっ…きいた…」
「手加減したほうがよかったでしょうか…」
「いや、そんなことねぇけど…」
「なにやってんのユーリさんオレもまぜてよ」
小屋から飛び出した九太郎がハチの背後から跳び蹴りを食らわす。
腰にきまった蹴りでその場に膝をつくハチ。
「九太郎 テメェ…」
ハチが腰に手をあてて、ぐぐぐっと体を起こす。
「ははっ!」
九太郎は笑いながら砂浜を走っていく。
素早く立ち上がって九太郎の後を追う。
「待ちやがれこのヤロウ!」
縮めていくはずの距離がどんどん開いていく。
息が切れて足もあがらなくなってくる。
「はっ、はぁっ。」
やがてスニーカーの先が砂に取られる。
「うおぁっ。」
ざっとその場に手をつく。
ぜぇぜぇと呼吸があがったままもどらない。
ぶるっとハチの体が震える。
「ふ……ぶぇくしッ!」
くしゃみの反動で汗をかいた顔に砂がバッと張り付く。
ハチは顔をしかめてセーターの袖で顔を拭う。
「…くそったれ…」
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