sono11

「なぁにぃ?タナベそのおっきなバンソウコウ。」
リュシーがパフェスプーンで額を指す。
「んー…」
テーブルの上にあごをかけてだるそうなタナベ。
「ちょっと…ね…。ぶつけて…。」
「ふぅーん。…あっ!頭の上!すんごいタンコブ!!」
「ホントだー。」
ヴァンリとシャポウがまじまじと見つめる。
「ちょっと…ね…。ウチの船長に…。」


「時間ないって言ってんだろがあああぁぁぁ!!」
フィーが両手のこぶしを振り下ろす。
「うがぁっ!!」
「いだぁ!!」


「……うぅ。」
エアロックでの出来事を思い出す。

「あっ!チェンシンさん!!…とオムツ男。」
通路をこちらに向かってやってくる。
「チェンシンさんも休憩ですか?」
リュシーが嬉々とした表情で話しかける。
「うん。食べれるうちに食べとかないとね。
あれ?タナベさん、そのおでこ…」
「おい、チェンシン!向こう、向こうのテーブルで食おうぜ。」
「え?どうして。いいじゃないここで。」
「……」
ちらっとタナベを見る。恨めしそうな目でハチを見るタナベ。
「ちっ…」
どかどかとテーブルにつき、がつがつと食事を食べはじめるハチ。
ぷいっと顔をそむけるタナベ。
そのやり取りをしっかりと見ているリュシー。
「ふぅぅ〜ん。」
「なによぅ、リュシー…。」
ふふふふふっと一人で笑う。




sono12

「ねぇハチ、タナベさんもおでこに絆創膏はってるね。」
ひたすら食事を口に運んでいたハチの手が止まる。
「…俺とは関係ねぇよ。」
「別にハチとタナベさんがどうとか言ってないよ?」
「む……」
またがつがつと食事を口に運ぶ。
「お前って、時々くえないヤツだって思うよ。」
「そう?」
微笑むチェンシン。
「それよりも頭のたんこぶは大丈夫かい?」
「あー…二発くらったからな。さすがに…」


「さっさと次の準備をしろっっ!」
ふたりの首根っこを持あげるフィー。
「おっっ…同じ所をぉぉ…」
「ふえぇ〜ん…」


「くっそぅ、フィーのヤロウ…」
エアロックでの出来事を思い出した。



「ぶぅえくしっっ!!」
スモーカーズシートで大きなしゃみが飛ぶ。
「あ゙ーもう…誰かウワサを…」
「フィーさん、湿布とって来ましたよ。」
ユーリが救急箱を持ってくる。
「ユーリ。悪いねぇわざわざ。」
「いえ。以前ホシノさんを手当てしたときのが残ってたので。」
なれた手つきでフィーの両手に湿布と包帯を巻く。
「まったく、あいつら二人して石あたまで…船長の手を何だと思ってるんだか!」
ぎりぎりと歯軋りをするフィー。
「はい。終わりましたよ。」
「ありがと。ほんと器用ねぇ。」
ユーリがきちんと湿布と包帯を救急箱にもどす。
「…ねぇユーリ、あの二人…」
「…まる聞こえ…でしたね。」
「あんまり揉め事はねぇ。勘弁してほしいよ。」
「管制課の人、怖かったなぁ…。」




sono13

テクノーラ社内廊下にカッカッとヒールの音が響く。
クレアは眉間に深い溝をよせ、足早に歩いている。
貨物カーの通過を待っていると、すぐ横に誰かが並んだ。
クレアは気にも止めずに、ガードが降りるとまた足早に歩き出す。
「ちょ、ちょっと!なんで気づいてくれないかぁ。」
その声に振り返るクレア。
「久しぶり。」
「チェンシン!」
クレアの顔がほころぶ。
「ごめんなさい、気づかなくて…ちょっと考え事してて…
本当、久しぶりね。」
「コクピットで声だけはよく聞いてるんだけどね。」
チェンシンが微笑む。
「ここ。」
クレアの眉間を指差す。
「えっ?何?」
「寄ってた。」
「えっ… そ、そうだったかしら…。」
「周りの人がよけてくぐらい。」
かぁぁっとクレアの顔が赤くなる。
あいている右手で顔をさするクレア。まだ顔が赤い。
「さっき、食堂でハチと一緒にごはん食べてたんだ。
なんかボロボロだったなぁ。頭にたんこぶと額に絆創膏で。」
「…知ってるわ。」
ふっとクレアの表情がくもる。
「何か…あった?」
クレアは大きく息を吸うとはぁっと息を吐いた。
「あなたには…隠し事はしたくないのだけれど…ごめんなさい。」
「ハチのことで?」
沈黙。
「……失敗しちゃったなぁって。」
「失敗?」
クレアの返事を待つが、クレアは黙ったままだ。




sono14

チェンシンが話題を変えようとクレアに話しかけようとすると、
「あなたには、本当に感謝してるの。」
クレアは言った。
突然の言葉にチェンシンが驚く。
「そんな、感謝って…」
「ありがとう。」
クレアが微笑んだ。
「……」
「…? チェンシン?」
「…クレアさ、普段からそうやって笑えばいいのに。」
「え!?」
「かわいいのに。」
「かっ!!?」
クレアは思わずその場に立ち尽くし、うつむいてしまった。
耳まで赤くなっていく。
「…そんなこと言われたの、はじめてだわ…」
「……」
ハチのやつ、クレアになにも言ってあげてないのかな…チェンシンは思った。
「もう!あなたって、なんでそういうこと平気で言えちゃうのかしら!」
そういうと多少赤みが引いた顔をあげてカッカッと早足で歩きはじめた。
小走りでチェンシンが追いかける。
「お世辞なんかじゃなくて、本当にそう思ったから言ったんだけど…」
またクレアが立ち止まる。
「…ね?」
チェンシンがクレアに笑いかける。
「……」
クレアが横目でちらっとチェンシンをみる。
「ん?」
「…新人のころから思ってたけど!」
クレアが歩き出す。
「あなたって、"食えないひと"よね!」
クレアらしさがもどってチェンシンが微笑む。
「そう?」




sono15

「どーゆーことですかホシノさんッ!!」
両手のこぶしをテーブルにドンと叩きつけてリュシーは言った。
周りの客がいっせいにこちらを振り返る。
ハチは周りの反応におろおろしながらリュシーをなだめようとする。
「お、落ち着けよっ、つーかなんの話だっ。急に呼び出しやがって!」
「これ!これですっ!!」
リュシーはハチの鼻先に一枚の写真を突きつけた。
「う…。」
「タナベを捕まえといてって…いったのにぃっ!」
リュシーは涙ぐみながらこぶしを震わせている。
「こ、これは…ってかこんなのどこで手に入れてくんだよっ。」
「チェンシンさんにタナベに渡しておきますねってもらって来たんですっ!」
「あ…そ…。」
「チェンシンさんとタナベがデートなんてっ…うわーん!!」
「だから落ち着けって…」
リュシーはハンカチで両目をぬぐうとハチに言った。
「ただでさえあやしい女がチェンシンさんと仲良くしてるのにっ!」
リュシーはバックからもう一枚写真を取り出してテーブルに叩きつけた。
「今度はなんだよ!」
ハチは写真を手にとった。
「ホシノさん、その人ご存知でしょう!?」

ハチはソファーに背をもたれた。

「あー…クレアとチェンシンだったらアンタが心配するようなことは何もないぞ。
つーか、こんな写真もどこで手に入れてくるんだか…」
「わたしが撮ったんです!」
「はぁ?まさか後つけたのか!?」
「たっ…たまたま見かけて、それで…」
「…隠し撮りか…」
「へ、変なこと言わないでよね!それより今問題なのはこの人なんです!」
「だから、この二人は大丈夫だっつーの!いい友達同士なの!」
リュシーはテーブルに身を乗り出して言った。
「男女の友情なんてっ、みとめませんっ!!」
ハチは至近距離まで近づくリュシーにたじろぎながら、
「と…、とにかく!俺にはもう話すことなんて何もないからな!」
2枚の写真を額に叩きつけるようにリュシーの顔をおいやる。
自分のコーヒー代をテーブルに投げ出し席を立とうとするハチ。
写真を握り締めてうつむいたリュシーがぼそっとつぶやく。
「知ってるんですよ、わたし…彼女だったってこと。」
ぴたっとハチの動きが止まる。
「ホシノさんは!元カノが同僚に取られちゃっても平気でいられるんですか!?」
わなわなとハチが震える。
「どういう理由があって別れちゃったか知らないけど、まかせて!あたしが…」
ハチがテーブルのふちに両手をかけた。
「どいつも、こいつも、いちいち、いちいち…」
「え?え!?何!?」
「終わった話をぉぉーーー!!」
テーブルを一気にひっくり返す。
店内が騒然となる。
「お、お客様!?お客様ーーッ!??」
あわてて店員がハチを後ろからはがいじめにする。
「なんでテメェにまでんなこと言われにゃならんのだぁぁ!!」
リュシーはあっけにとられ、コーヒーがかかったことも気づかず
ボーゼンとしてしまった。




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